大判例

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仙台高等裁判所 平成10年(行コ)7号 判決 1998年9月08日

東京都千代田区一番町二三番地二

控訴人

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井浦謙二

福島県郡山市堂前町二〇番一一号

被控訴人

郡山税務署長 菊池進

右指定代理人

大塚隆治

山中周造

粟野金順

小松豊

加賀谷清孝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、平成四年七月六日付でした酒類販売免許申請拒否処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

第二主張

次の付加訂正以外は、原判決事実摘示のとおりである。

一  原判決の付加訂正

1  六頁七行目の「平成元免許年度」の次に「(免許年度は、当該年の九月一日から翌年八月三一日までをいう。)」を加える。

2  一二頁初行の「本件免許拒否処分を」を「本件免許拒否処分が」と改める。

3  二二頁七行目の「三・六」を「三・四」と改める。

4  二六頁六行目の「一二万」を「八万」と改める。

5  二七頁七行目の「同5は争う。」を「同5のうち、(二)の平成四年度における酒税収入の国税全体に占める割合が三・四パーセントであることは認めるが、その余は全て争う。」と改める。

6  三三頁二行目の「あって、」の次に「独占禁止法にも抵触し、」を加える。

二  当審における控訴人の主張

1  免許取扱要領の違法性(人口基準採用の不合理性)

免許取扱要領の認定基準は、昭和六二年当時の各小売販売地域の各売上金額を、その当時の人口一人当たりの消費金額(全国平均)で除して算定した基準人口を用いて右各地域の基準人口比率を算定し、その地域の年度内の免許枠を確定する手法を採用しているが、本件免許拒否処分時である平成四年度は、昭和六二年度に比し酒類の消費数量、消費金額が著しく増加しており、右消費数量、消費金額が増加していれば酒販業者が増加しても昭和六二年度の売上金額を維持できるから、酒販業者の経営不振により酒類製造者の酒販業者からの酒税回収が不能となることはない。したがって、昭和六二年度の基準のままで免許枠を増加させない結果となる右認定基準は違法である。しかも、基準人口は、昭和六二年当時の売上高を維持することができるように前記方法で算定されたものであるから、少なくとも基準人口比率の計算値とその地域の既存の酒販業者の数が一致しなければならないところ、基準人口一五〇〇人のA地域に格付されている郡山市の昭和六二年当時の人口は約三〇万六八〇〇人と推定され、したがって、計算上その基準人口比率は二〇五となるが、当時の同市の酒販業者は平成四年当時と同じく三四八業者存したと推認されるので、基準人口比率の実に約一・七倍存したことになり、前記認定基準は、昭和六二年当時の酒販業者の売上金額を維持するために必要な人口を参酌して定められたものとさえいえず、著しくその合理性を欠くものである。

2  酒販免許制度の合憲性審査基準

原判決は、最高裁平成四年一二月一五日判決に従い、酒販免許制度の合憲性審査基準として「その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない」とする基準を採用しているが、租税の課税標準、税率、納税者の範囲等を定めるのと異なり、酒販免許制度は、租税者に税負担を確実に転嫁するための仕組みであって、租税を適正かつ確実に徴収するための手段に過ぎないのに、この点についての立法裁量を広範囲に認めるようでは、本件の如くに職業選択の自由が容易に制限されることとなり、裁判所がこれを違憲とする余地はなくなってしまう。より具体的に例示すると、消費税について、立法府がその確実な賦課徴収のために、全小売商に免許制度を導入する立法を制定しても、違憲とはなし難いこととなって極めて不当である。

3  酒販免許制度の違憲性

酒販免許制度は、原判決の採用する合憲性審査基準を採用したとしても、次のとおり著しく不合理なものであり、憲法二二条一項に違反する。

(一) 酒販免許制度の目的は、原判決がいうように名目的には酒販業者の倒産を防止し酒税の保全を図ることにあるものの、その真の目的は、酒販業界への新規参入者を制限して既存の酒販業者の既得権益を保護することにあり、酒税の保全は副次的、反射的効果に過ぎない。

(二) 酒販免許制度の採用前後で酒税の滞納率に差異がなく、むしろ右制度採用後滞納率が増加した時期があったことからして、右制度が酒税の滞納防止に役立つという証拠は存しない。

(三) 酒販免許制度は、控訴人が原審でも主張したとおり、国税収入全体に占める酒税の割合などから見て、本件免許拒否処分当時既にその必要性と合理性を欠いていた。原判決は、酒税が国税収入の中で今でも重要な位置を占めているとか、課税環境が異なるから営業免許制度が採用されていない揮発油小売業などと同一に取り扱わなくとも不合理でないなどと説示するけれども、平成四年度の酒税収入は揮発油税を上回っているものの、石油三税及び地方道路税の合計額を下回っており、実質的観点でみれば国税収入の六番目に位置するに過ぎない。税負担率も揮発油小売販売業の方が酒税より高率で、酒造業者も石油精製業者と同じく少数の大企業で占められており、また、酒販業者も揮発油小売業者と同じく開業に多額の資金を要する。そして、揮発油販売業者の場合、事前登録制を採用し、その販売場に一定の有資格者を置くことを要求されているのは品質の確保が目的であって、右販売業者の経済面とは無関係であるから、揮発油税確保の観点から考慮すべき事情ではない。したがって、課税環境が異なるというのは失当である。

4  酒税法一〇条一一号の免許要件及び免許取扱要領の違憲性

(一) 本件免許拒否処分の根拠は酒税法一〇条一一号であり、平成四年の前記最高裁判決で問題となった同一〇号の規定とはその要件が大きく異なる。すなわち、一一号は、一〇号と異なって、職業希望者の力が及ばないところで充足の有無が判断される客観的条件であり、かかる条件による制限は、人の職業適格性に関わる主観的条件による制限よりも厳しいものといえるから、その憲法適合性の判断に際しては厳格な審査が要請され、必要最小限度の原則の要件充足が認められなければ違憲というべきである。また、右最高裁判決は、同一〇号の規定内容を、「酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられるもっとも典型的な場合を規定したものということができ」と判示しているが、本件で問題となる一一号の規定内容は、そのもっとも典型的な場合を規定したものでないことはいうまでもない。

(二) また、酒類の需給の均衡は、製造数量の多寡によって左右され、販売業者の多寡は酒税の確保に影響を及ぼさないというべきであるから、右業者の新規参入を制限することによって需給の均衡を図ろうとするのはそもそも誤りである。

(三) 酒販免許制度は酒販業者の経営安定を図ること自体が目的ではなく、酒税の確保と円滑な消費者への転嫁を図るための手段に過ぎないから、そのためには、免許取扱要領の場所的要件(距離制限)だけで十分目的を達することができ、右取扱要領の需給調整上の要件は不要というべきである。したがって、右要件を課している右取扱要領は著しく合理性を欠き、憲法二二条一項に違反する。

(四) なお、平成一〇年三月三一日の閣議決定により、酒税法一〇条一一号の需給調整要件のうち、距離基準については平成一二年九月一日をもって廃止するとともに、人口基準については平成一五年九月一日をもって廃止することが決定された。したがって、右需給調整要件の定めは、もはや否定あるいは空文化されたものというべきであるから、本件免許拒否処分は違法と評価されなければならない。

5  本件免許拒否処分の違法性

本件免許拒否処分は原審においても主張のとおり、控訴人代表者を狙い打ちして潰すために行ったことは、控訴人が本件を初めとして酒類販売業免許申請を各地で一〇件申請し全部拒否されていることから明らかであって、このようなことは、申請したのが控訴人でなければ絶対に起き得ない。免許取扱要領上二ヶ月内になされるべき右処分を九ヶ月以上経過してからなされたのも、その反映にほかならない。このような恣意的処分は違法である。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、次の付加訂正以外は原判決の記載と同じ理由により、本件免許拒否処分は適法であり、憲法にも違反していないと判断する。

1  原判決の訂正

(一) 原判決三八頁八行目の「ほとんど変化がない」を「比較的緩やかな伸びにとどまっている」と改める。

(二) 四二頁四行目の「二」の次に「2」を加える。

(三) 同一二行目の「憲法」から四六頁三行目までを「職業の許可制は、職業選択の自由そのものに制約を課する強力な制限であるから、その憲法二二条一項適合性を肯定するためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(最高裁昭和五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)が、他方、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものと解されている(最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁)。

そうすると、酒税法における酒類販売業の免許制については、公共の利益の観点からこれを必要かつ合理的であるとする立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量に範囲を逸脱するもので著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない。」と改める。

(四) 四六頁四行目の「4」を「2」と改める。

(五) 同一二行目の「そして、」を「法が、酒類販売業につき免許制を採用したのは、酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者への税負担の転嫁を円滑ならしめるため、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を酒類の流通過程から排除し、酒税の適正かつ確実な徴収を図ろうとしたものと解される。」と、四七頁六行目の「認められ」から次行末尾までを「認められるが、右答弁等は、免許制の趣旨目的が右説示のとおりであることを明らかにしたものである。」とそれぞれ改め、同八行目の冒頭から同一〇行目末尾までを削除する。

(六) 四八頁三行目の「ところで、」の次に「後記認定のとおり」を加える。

(七) 四九頁八行目の「別表四」(原判決添付の別表四)を本判決の別表に改める。

(八) 五一頁七行目の「酒類製造業者の」を「酒類製造者に」と、同九行目の「認められない。」を「認められないから、」とそれぞれ改め、その行の「加えて」から五二頁初行の「考慮すると、」までを削除する。

(九) 五二頁八行目の「需要が」の次に「ほぼ限られた量の範囲内にとどまっている実状に鑑み」を加え、同一二行目の「を採用した」から次行の「できないし、」までを「の立法目的を達成するための手段として、合理性を有するものということができるし、」と改める。

(一〇) 五三頁一〇行目冒頭から五四頁八行目末尾までを「しかしながら、前記のとおり、酒販免許制の違憲性審査の基準としては、その必要性と合理性についての立法府の判断がその政策的、技術的裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理なものでないか否かの基準によるべきであって、いわゆる必要最小限度の基準によるべきものではないから、右主張は採用できない。」と改める。

(一一) 五四頁一一行目の「ことのような」を「ときのような」と改める。

(一二) 五六頁三行目の「右の滞納率」から同六行目末尾までを「右事実に照らすと、酒税の滞納率は、酒販免許制度によって低下したとまでは認められないにしても、所得税等と対比すると低率のまま概ね安定して推移しているということができる。もっともそれが専ら酒販免許制度によるものと実証し得る資料はないが、少なくとも法が採用している庫出課税方式という酒税の賦課徴収の仕組みに負うところが大きいことは否定し難いと考えられるから、その庫出課税方式を前提に、酒類製造者の販売代金回収を確実にして酒税収入の確保を図ることを意図した酒販免許制度が、総体的にみて、酒税の滞納防止に寄与していることは否定できないというべきである。したがって、統計上酒販免許制度の採用と滞納率との間に明確な相関関係が認められないからといって、単純にその合理性を云々することは当を得ないものといわなければならない。」と改める。

(一三) 五七頁八行目の「必要とし」の次に「(酒販店の開業にも、顧客を集めるには場所を選ばなければならないので、その関係でかなりの費用を要するであろうが、設備自体はガソリンスタンドほどの多額の投資を要するとは考えられない。)」を加える。

(一四) 五八頁初行の次に行を改めて、次の説示を加える。

「また、酒販免許制度は、酒販業者の新規参入を調整することにより、酒類の供給が過剰となる事態を避け、酒販業者の経営安定を図って、酒類製造者による酒類販売代金の回収を確実にしようとするものであり、酒販業者に対し一定の価格による販売を強制する方法によって酒税を消費者に転嫁しようとするものではないから、独占禁止法に抵触する事態は考えられないし、控訴人主張のように酒税の大部分、すなわち約九六パーセントが大手の酒造業者によって納税されているとしても、ビール、ウイスキーを含めて酒類の大部分は中小の酒販業者を通じて販売されており、たとえ大手酒造業といえども、これらの酒販業者の経営の安定が図られ、販売代金が回収されてこそ確実な酒税の納付が期待できるのであるから、酒販免許制度を維持する必要性や合理性がなくなったということもできない。なお、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和二八年法律第七号)も、控訴人主張のとおり確かに酒税の保全をも一つの目的として制定されたものではあるが、同法は、酒販免許制度を前提として、免許を受けた業者団体による自主規制を主眼として酒税の確保を図ろうとするものである(同法一条)から、これによって酒販免許制度の目的を完全に代替し得るとは考えられない。」

(一五) 同二行目の「右主張」を「前記主張」と改める。

2  当審における控訴人の主張について

(一) 1の主張について

乙第六、第九号証及び弁論の全趣旨によれば、本件免許拒否処分時である平成四年度の酒類消費量は、免許取扱要領の認定基準が採用している基準人口の算定基礎である昭和六二年度の酒類消費量に比し二割程度増加しており、国民一人当たりの右消費量も増加していることが認められる。しかしながら、経済的な諸要因から、酒類消費量等が右程度に増加したからといって、一般酒類小売業者の経営に大きな変動をもたらすとは考えられず、したがって、原判決四〇頁末行から四一頁三行目に説示するとおり、右消費量等の増加により本件免許拒否処分時の同業者の経営の実態が、昭和六二年度の時点と大きく異なっているとは認められないから、右認定基準が、右処分時において不合理なものとなるに至ったということはできない。また、右基準人口は、原判決三八頁三行目から四〇頁四行目(但し、本判決による訂正後のもの。以下同じ)説示の方法で算定されたものであって、昭和六二年当時の各小売販売地域の酒類売上金額を維持するために必要な人口のいわば平均値であり、控訴人主張のように各小売販売地域の基準人口比率の計算値と右各地域の既存の酒販業者の数が必ずしも一致するものではなく、そのためもあって、免許取扱要領では、右基準人口を採用することが適当でないと認められる場合には国税庁長官に上申の上、二〇パーセントの枠内で基準人口を変更することができるものとされているのである(乙第三号証)。したがって、地域によっては基準人口比率を上回る既存の酒販業者が存在することもあり得るわけであるが、それは、新規参入により当該小売販売地域における酒類の供給が過剰となる事態を生じさせるか否かを、恣意を排して客観的かつ公正に認定する基準を設定する上ではやむを得ないところであって、右認定のように柔軟な運用の余地も持たせていることとも考え合わせると、そのことから右認定基準の合理性を否定することは妥当でない。

(二) 2の主張について

酒販免許制の定めは、確かに、酒税の課税要件や納税義務者の定めに比べると、徴税のための手段的、補助的側面を有することは否定できない。しかし、右免許制度は、酒税を納税義務者である消費者に転嫁する方法の一環として採用されたものであり、酒税の根幹部分とは切り離すことができない関連性があって、勝れて政策的、技術的性格を帯びるものであるから、その合憲審査を、その手段的、補助的な性格を理由に、前記一1(三)に説示した基準とは別個の基準で行うものとすることは相当でない。そして、酒税の場合、小売価格に占める税負担率が消費税に比し著しく高率であって、その納税義務者も酒販業者ではなく酒造業者に限られているのであるから、これと異なる消費税につき全小売商に免許制度を導入した場合と同一に論じようとするのは的外れの議論というほかはない。

(三) 3の主張について

酒販免許制度の目的が酒税の確保すなわち酒税の保全にあり、既存の酒販業者の既得権益が保護されるのは、副次的、反射的な効果に過ぎないことは原判決四七頁末行から四八頁二行目まで説示のとおりであり、酒税の滞納率が所得税等と対比すると低率のまま概ね安定して推移しているのは、総体的にみて、酒販免許制度が寄与しているものと見られること前記一1(一二)説示のとおりである。また、酒税が控訴人主張のように石油三税及び地方道路税の合計額を下回っており、実質的に見れば国税収入の六番目に位置することになるとしても、酒税が、本件免許拒否処分時においても、なお国税収入全体の三・四パーセントの割合を占め、酒税の収入総額が一兆九〇〇〇億円を超え、小売価格に占める酒税比率も高率であって、庫出課税方式により、酒類製造者に納税義務を賦課した上、この業者が販売代金を確実に回収できるようにして、酒税を最終的な担税者である消費者に円滑に転嫁できる仕組みを定めることの必要性及び合理性が失われるに至っていないことは原判決四九頁初行から五一頁九行目説示のとおりであり、揮発油税につき揮発油小売業に免許制は採用されていないが、そのことから酒販免許制の合理性に疑問を投ずることの不当なことは原判決五七頁二行目から五八頁一行目説示のとおりである。したがって、酒販免許制度に著しく不合理な点は存しない。

(四) 4の主張について

酒販免許制の違憲性審査の基準としては、その必要性と合理性についての立法府の判断がその政策的、技術的裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理なものでないか否かの基準によるべきであって、いわゆる必要最小限度の基準によるべきものでないことは前記一1(三)、(一〇)説示のとおりであるし、酒類の需給は、酒販業者の手を介さなければならないのであるから、その需給の均衡は、控訴人主張のように製造数量の多寡よりも酒販業者の多寡による影響の方が大であると考えられる。また、酒販免許制度は、控訴人主張のとおり酒販業者の経営安定を図ること自体を目的とするものではなく、酒販業者の新規参入を調整することにより、酒類の供給が過剰となる事態を避けることによって酒販業者の経営安定を図り、もって酒類製造者による酒類販売代金の回収を確実にしようとするものであり、酒類の需給は右のとおり酒販業者の多寡による影響が大であることと照らし合わせると、免許取扱要領の場所的要件(距離制限)だけで十分であるとする控訴人の主張は根拠がない。なお、酒税法一〇条一一号の免許要件及び免許取扱要領の合理性が認められ、憲法に違反するものでないことは、原判決三七頁一二行目から五三頁五行目説示のとおりである。

なお、甲一八二号証、乙第一七ないし第二一号証によれば、平成九年六月一三日中央酒類審議会から「酒販免許制度等の在り方について」答申がなされ、これに基づき同一〇年三月三一日に控訴人主張内容の「規制緩和推進三カ年計画」が閣議決定され、右同日免許取扱要領の一部が改正されたが、その内容は、人的要件等の酒販免許制の枠組みについては今後とも堅持するが、酒類小売業免許に係わる需給調整要件については、平成一二年九月一日をもって廃止するとともに、人口基準については平成一五年九月一日をもって廃止することとし、平成一〇年九月からそれまでの間、基準人口の段階的引き下げを行うこととするものである(平成一〇年九月一日から適用)ことが認められる。しかしながら、右答申によれば、右改正の理由として、右需給調整要件が、市場への新規参入を阻止し、消費者利益の向上や流通の合理化を妨げる面があり、また、酒販免許制度の導入当時と比較して今日においては、酒類の生産・流通各層における経営や取引の状況が大きく変化してきていることから、酒税の円滑な転嫁を確保する観点からの現在の需給調整要件を維持する必要性が以前に比し低下してきていることなどが挙げられているのであって、酒税法一〇条一一号の免許要件や右改正前の免許取扱要領の合理性を全く否定したり、本件免許拒否処分当時の合理性まで必ずしも否定するものでもなく、したがって、右改正をもって、本件免許拒否処分の違法性の根拠とすることは相当でない。

(五) 5の主張について

控訴人が本件を初めとして酒類販売業免許申請を各地で一〇件申請し全部拒否されたことが事実であるとしても、それがそのような狙い打ちだけの理由によるのであれば、いくつかは裁判所によって是正される筈であるが、被控訴人の主張に照らすと、そのうち六件の免許拒否処分取消請求訴訟について判決がなされ、うち五件が一審で請求を棄却され控訴審で控訴棄却の判決、一件が一審で請求棄却の判決がなされていることが認められるのであり、右事実によると、その申請拒否は、免許取扱要領の認定基準の免許付与の要件を充足しないためであって、控訴人主張のように控訴人代表者を狙い打ちにして潰すためのものではなかったことを窺うことができ、そのような恣意的処分であることを前提とする控訴人の主張は理由がない。なお、そのような主張を前提に本件免許拒否処分の違法性をいう控訴人の主張の理由のないことは、原判決五九頁初行から六〇頁三行目までの箇所で説示したとおりである。

(六) 以上の次第で、当審における控訴人の主張はいずれも理由がなく採用できない。

二  よって、本件控訴は理由がないので主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林啓二 裁判官 佐々木寅男 裁判官 佐村浩之)

酒税収入の国税全体に占める割合

<省略>

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